雛人形や五月人形をなんとなく選び、飾っているという方は意外に多いのではないでしょうか。日本に古くから伝わる風習には、きちんとしたいわれや本来の目的があります。その知識を得ることで、ますます人形にも愛着がわき、毎年の節句が楽しくなるはずです。今回は、人形のことを知っていただくキッカケとなるよう、ユーザーからの素朴なギモンを、吉德浅草橋本店の松本店長にぶつけてみました。
もともと3月3日、5月5日は「縁起が悪い日」だった!?
Q.1そもそも、雛人形、五月人形はなぜ飾るのでしょうか?
A.1 ひとことで言えば、お子様の誕生を祝い、健やかな成長を祈るためです。
今では毎年お祝いをし、縁起の良い日のように思われている「3月3日」と「5月5日」ですが、古代中国では、奇数が重なるこの日は「重日」といって忌み嫌われ、悪い日だと考えられていました。そこで、古代中国の人々はこの悪い日にさまざまな厄ばらいをすることで、家族が無事に過ごせるよう祈ったのです。それが、現在のひな祭りや端午の節句の始まりと言われています。
そして、雛人形と五月人形には、それぞれに由来があります。
雛人形のルーツは、人間のけがれや災いを託して身代わりとする、紙や木で簡単に作った「ひとがた」だとされています。もともとは粗末なものでしたが、人々は「ひとがた」が自分たちを守ってくれる尊い存在、神様のようだと考えるようになり、大切にまつるようになったのです。
江戸時代、3月3日に飾られる雛人形は、すでに高貴な男女の一対で、華麗な衣裳をまとった美しい姿をしていました。各家庭では、これらの人形に季節のご馳走やお酒をお供えし、そのお下がりを頂きました。さらに、美男美女が仲睦まじく並ぶ男雛女雛の様子は、いつしか理想的な夫婦の姿として、女性の幸せと重ね見られるようになったのです。
五月人形のルーツは、武家の宝物であり、刀とともに武士の精神的な象徴であった甲冑(鎧兜)にあります。5月5日は古代中国では一年の中で最悪の日。その影響を色濃く受けた日本でも、もともとは厄除けの儀式を行っていました。しかし江戸時代になるとその様式は変化し、武家では後継ぎとなる男の子の誕生を祝って、初節句には作り物の兜を飾り、それを神様に降りてきていただくための印としました。また庶民もこれを真似て勇ましい武者人形をつけた作り物の兜を屋外に飾ったのです。これらが徐々に変化し、ミニチュア化していったものが、現在室内に飾っている鎧兜や武者人形です。
雛人形も五月人形も、人々が子どもの誕生を祝い喜び、その健やかな成長と幸せな一生を祈って贈るもの。その「祝いと祈りのかたち」を象徴した姿なのです。
古い節句飾りはお子様に譲るのではなく新たなものとともに…
Q.2雛人形、五月人形は代々受け継いでいくものですか?
A.2よく「大切に保管してきたので綺麗だから」、「思い出がたくさん詰まっているから」等の理由で、親御様のお人形をお子様に譲りたいとの声を耳にします。
しかし、雛人形・五月人形の本来の目的は、お子様の誕生を祝い、健やかな成長を祈るためのもの。本来は一人ひとりにあるべきものであり、お子様が無事に成長した時点で、その役目は終わりを告げるのです。
特に雛人形の場合は、そのルーツが人間のけがれや災いを託す「ひとがた」とされるため、その使い回しは忌み嫌われることも。「神社の御礼や御守を、他者に譲って使いまわすのと同じ」と考えると分かりやすいかもしれません。また、初節句という一生に一度の慶事に古物を用いるのも敬遠されます。
ただし、お母さまやお父さまの愛着のある節句飾りを、お子様の節句飾りと一緒に飾ることは全く問題ありません。先祖代々の雛人形や五月人形は、その家庭が連綿と続いてきた歴史そのものであり、そこに、誕生した赤ちゃんのための新たな節句飾りが加わるならば、これほどおめでたいことはありません。
なお、そうした本来の役目を終えた節句飾りで、収納場所等の事情から処分せざるを得ない場合は、全国各地の社寺で行われている「人形感謝祭」や「人形供養」に持参し、初穂料・供養料を添えてお納めになるとよろしいでしょう。なお、東京・代々木の明治神宮では、毎年10月初旬の日曜日に盛大な人形感謝祭を行っています。
詳しくはこちらをご覧ください
男児の誕生を神様に知らせて立身出世を祈願
Q.3端午の節句に鯉のぼりを飾るのには何か意味があるのでしょうか?
A.3男の子が生まれたことを天の神様にお知らせし、それを目印として降りてきていただくためです。「登龍門」と言えば立身出世の象徴のような言葉ですが、もともとは中国の黄河の上流に「龍門」という滝があり、その滝をみごとに登り切った鯉は龍になるという故事『登龍門伝説』によります。この故事にちなんで、鯉の形をした吹貫(ふきぬき)を掲げ、龍門を登った鯉のように男の子が立派に成長することを祈るのです。
現在では、『こいのぼり』という唱歌にもあるように、真鯉を父、緋鯉を母、次から子供たちとし、次男、三男が生まれると子鯉を増やすご家庭もあります。
五月人形の販売はこちら
節分が終わったら準備を。少なくとも1週間前には飾りましょう
Q.4雛人形・五月人形はいつ頃までに購入して、いつ頃までに飾るのが良いのでしょうか?
A.4雛人形ならば、2月3日の節分が終わったのちに準備を始めるのが一般的です。2月の中旬から遅くともひな祭りの1週間前までには人形を出し、飾りつけをすると安心です。 五月人形も、4月中旬頃までには飾りつけを終えると、落ち着いてお節句をお迎えできるでしょう。
前日に慌てて飾る「一夜飾り」は、昔から良くないと言われています。お節句は年に1回のお祭り。毎年きちんと飾ることで、お子様への想いや成長などを家族で和やかに語り合合う機会にしていただけたらと思います。
雛人形・五月人形は工場で大量生産されているものではありません。毎年の製作数には限りがありますので、豊富な種類の中からお選びいただくためにも、早めのお求めをおすすめいたします。毎年、新しいカタログは11月頃から配布されますので、店頭でお声をかけていただければと思います。
Q.5ひなまつり・端午の節句の直前に生まれたときは、すぐに人形を購入し、お祝いをしたほうが良いのでしょうか。
A.5生まれて1カ月ほどで迎える「お宮参り」より、節句が先に来てしまう場合など、赤ちゃんの誕生から、お節句までにあまり間がないときは、お祝いを翌年に延期しても良いかと思います。ご家族はもちろん、ご親戚やご友人も慌ただしいのは何かと大変ですし、お人形選びも、短い時間で慌てて決めてしまうより、ゆっくり時間をかけてお気に召すものをお選びいただいたほうが、毎年のお祝いも楽しみになるのではないでしょうか。
段数は気にせず、まずは節句のお祝いを大切にしましょう
Q.6雛人形は段数が多いほうが良いのでしょうか?
A.6たしかに七段飾りは豪華で、いかにもひな祭りらしい雰囲気に溢れています。しかし、昨今の住宅事情を考えると、すべてのご家庭でそれを飾るのは不可能でしょう。まずは、節句のお祝いを大切に考え、男女一対の雛人形をお飾り頂く事が何より重要です。ただ、段数が多ければ、人形や道具が増え、より一層華やかにはなりますので、ご家庭の事情が許せば、ぜひおすすめさせていただきたいです。
Q.7どのくらい費用を用意すればいいのか想像がつきません…。
A.7当店では、価格帯でいうと20万円前後の人形の品揃えが豊富です。ただ、雛人形も五月人形も、数万円で買えるものから、数百万円に達するものまで価格はさまざま。各ご家庭で予算を決めていただき、その中でじっくりとお人形を見比べることで、お顔や衣裳を見る目も肥え、より一層お気に入りのお人形をお選びいただけるかと思います。
Q.8次女・次男にも新たに雛人形・五月人形を購入しようと思うのですが、やはり長子よりも金額が低いものを購入したほうがいいのでしょうか?
A.8雛人形、五月人形はその子の守り神のような存在なので、「長男・長女だから」と金額に差をつける必要はありませんし、兄弟・姉妹で必ずしも似たようなものをお求めになる必要もありません。例えば、「長女が雛人形の三段飾りを持っている」といった場合には、同じような三段飾りをお求めいただくのもいいですが、趣を変えて、異なるタイプのものをお選びいただくのもよろしいかと思います。
ひな祭りが終わっても飾り続けているとお嫁にいけない!?
Q.9雛人形、五月人形は何歳くらいまで飾ればいいですか?
A.9特に決まりはございません。ただし、雛人形や五月人形はお子様の成長を見守る守り神のような存在ですから、お子様の成長の節目をひとつの区切りとして、お飾りいただくのも良いでしょう。例えば、お子様の中学校卒業や、成人式、ご結婚までなどと、ご家族で決められてはいかがでしょうか。
Q.10ひな祭りが終わっても雛人形を飾りっぱなしにしていると、お嫁に行くのが遅れると聞きますが、これは本当なのでしょうか?
A.10昔からよく言われていますが、もちろん科学的な根拠のあることではありません。しかし、ひな祭りは本来お節句という一日だけの行事。ひな祭りが過ぎたら、てきぱきとすぐに片付けを始めるような働きものの女性なら、早くに良縁に恵まれるはず……との考え方から、このような言い伝えが生まれたのではないでしょうか。
以上、お節句や人形について詳しくご紹介してきました。大切なお子様の健やかな成長を願う「ひな祭り」や「端午の節句」は、日本が世界に誇るべき伝統文化のひとつです。自分が気に入った人形を購入し、毎年飾ることで、節句という行事の大切さや、親が子を思う優しい気持ちを、ぜひ受け継いでいってください。