吉徳これくしょん vol.11
衣裳人形とは、広義には文字通り衣裳を着た人形のことですが、特に雛人形・五月 人形・市松人形などを除いた、着衣の鑑賞用の人形をさし、時代も風俗もさまざまな 姿であることから、「風俗人形」「浮世人形」ともよばれます。
なかでも多いのは美人や若衆、歌舞伎や能・狂言の演目にちなんだ人形で、そこに各時代の美意識が反映されていることはもちろんですが、 浮世絵などの絵画と異なり、前後左右までも立体にあらわすことが可能な点と、布帛を用いてより実際に近い表現が可能な点は、 人形ならではの特性であり、風俗資料としても興味深い存在です。
とはいえ、360度どちらの視点からも不自然さを感じさせないように人形を制作することは至難の業であり、多くの衣裳人形は正面からのみの鑑賞を意識したものとなっています。
本品の作者は、市井の職人として五月人形の鍾馗や神武天皇を得意としていた人形師ですが、昭和初期の人形芸術運動にも参加し、 今日の人形芸術の礎を築いたひとりです。
二代・歌川 国貞の浮世絵から立体化させた本品は、絵にあらわされていない背面までも美しく、情緒豊かにつくられており、まさに 「立体浮世絵」と呼ぶにふさわしい優品です。