吉徳これくしょん vol.26
羽子板の表面を彩る代表的な技法は、絹の芸術ともいえる「押絵」ですが、ほかにも板に直接、絵具で描彩を施した「描絵」(かきえ)や、絹の小片を折って貼り付けた「つまみ細工」、焼筆で板を焦がして描く「焼絵」(やきえ)など、様々な技法が用いられていました。
実際に羽根突きをして遊ぶには、厚くて重い押絵羽子板よりも平面的な描絵羽子板などのほうが使いやすく、昭和30年代頃までは、そうした実用的な羽子板が大量に生産され、全国の玩具店を賑わしていました。しかし、正月といえども羽根突きをして遊んでいる風景を見かけることは稀となった現在、これらの玩具羽子板も数少なくなりました。
こうした玩具用と観賞用の中間に位置するような羽子板に「絹絵(きぬえ)羽子板」がありました。これは、羽子板の表面に薄く綿を入れた絵絹を張り、それに日本画とも洋画ともつかぬ技法で、歌舞伎俳優や宝塚あるいは映画スターの似顔を描いたりしたものでしたが、映画館の看板や俳優似顔のポスターなどとともに、いつしか消えていってしまいました。
歌舞伎役者似顔の押絵羽子板が、江戸のブロマイド的存在として誕生し、その売れ行きが役者の人気のバロメーターになったことを考えると、まるで雰囲気のちがう絹絵羽子板も、そうした伝統を受け継いだ存在であったのかもしれません。