吉徳これくしょん vol.36
「御台人形」は、宮中において皇族の子女方が天皇・皇后両陛下から初参内・初節句などの折に拝領される特殊な御所人形です。その多くは刺繍が施された緋縮緬の腹掛けと羽織を着て、作り物の草花や動物などを配した大きな桐製の台に乗っているため、この名で呼ばれています。
題材は多く吉祥説話や謡曲に取材していますが、およその寸法・様式が定められているだけに、どのような構図に仕上げるかは人形師の技術と感性に懸かっています。いかに趣向を凝らそうとも、皇室の御慶事にふさわしい気品と明るさが表現されなければいけないのです。
限られた宮廷文化のなかで育まれてきた御台人形は、民間において用いられる人形とは自ずと趣きを異にしています。しかし、子どもの健やかな成長を願うこころが込められているという点では、民間の節句人形と変わりがありません。高い美術的完成度を持ちながら、観賞目的だけではない「いのりのかたち」であることが、一層魅力ある存在にしています。
本品は大正天皇のご生母の実家・柳原家の旧蔵品です。祝儀の象徴である松竹梅と鶴亀が配され、大変おめでたい雰囲気となっています。このような人形がたくさん飾られた宮中のお節句はさぞかし華やかで美しいものだったことでしょう。