吉徳これくしょん vol.10
盂蘭盆に灯籠をともすことは古くから行なわれ、故人を偲んで新盆に提灯を贈る風習は現在も全国各地に残っていますが、公家や大きな寺院では、鎌倉時代末頃から、灯籠といっても趣の異なる、台の上に山水・建物・人物などの細工をした作り物を飾って供養とすることがありました。
これらは江戸時代中頃に民間で玩具化し、細い角材で舞台を造り、それに紙を切り抜いて作った社寺等の建物や風景、または歌舞伎の登場人物などを立てる遊びが京阪と江戸を中心に流行します。 大阪では主に「立版古」(たてばんこ)、東京では「組み上げ灯籠」「起こし絵」などと呼ばれました。これは中に火を灯すことはせず、店先や縁先に飾って、夕暮れには舞台の前に灯りを置き、 夕涼みの人たちに出来栄えを誇るように見せたものといいます。
組み上げ灯籠に用いる建物や人物などは、浮世絵師の原画による木版摺りの絵が、町の「絵草紙屋」で売られていたので、それを求め、厚めの紙で裏打し、 丁寧に切り抜いて作りました。しかし、その季節一時限りの「際物」(きわもの)でしたから、当時の絵はわずかに残存しているものの、 組み立てられた作品は使用後に処分されてしまい、残念ながら古いものは現存していないようです。
本品は十世・山田 徳兵衛(明治29年生)が幼少時の記憶をもとに後年、再現させたもので、今日では明治の組み上げ灯籠の姿を伝える貴重な資料となっています。