吉徳これくしょん vol.17
雛人形に付属するミニチュアの道具類を雛道具といいます。雛道具には沢山の種類があり、多くは江戸時代の公家の女性の日用品を写していますが、なかには武家や民間のものなどが含まれることもあり、そこからはそれぞれの社会の生活や民衆のあこがれが窺い知られます。
そうした雛道具のなかにしばしば見掛けるものに、貝桶(かいおけ)と犬筥(いぬばこ)があります。貝桶は、貝合せに用いる貝(合せ貝)を納める容器です。合せ貝には蛤(はまぐり)を用いますが、これは蛤の貝殻の一対が他の貝殻とはぴったり組み合わないことから、女性の貞操の象徴とされ、それを納めた貝桶は婚礼道具のなかで最も重要な品とされました。
犬筥は、「犬張子」とも「御伽犬」とも呼ばれますが、文字通り、犬をかたどった張子製の箱です。古来より、犬は災厄から人間を護ってくれるとされ、その姿を作って、魔除けとすることが行われましたが、犬筥も上流の家庭で産室や幼児の枕元に置かれて魔除けとされ、また婚礼の際にも用いられました。お宮参りの贈り物として、のちに民間で普及した犬張子も、これがルーツと考えられています。
貝桶も犬筥も、女児の健やかな成長と幸せを祈る雛飾りにふさわしい品といえましょう。本品はともに、昭和初期に吉徳(山田家)の子女のために誂えられた雛飾り一式のひとつで、犬筥は名人形師・久保佐四郎の作です。