吉徳これくしょん vol.24
秋の風物詩である菊人形は、頭や手足を木彫等でつくり、胴部を菊で飾った、ほぼ等身大の人形です。その起源は、江戸後期に巣鴨・染井あたりの植木屋によって作られた見世物の菊細工にあり、幕末から明治にかけて、団子坂(文京区)の植木屋たちが、これを応用して歌舞伎の名場面等を盛んにあらわし、人気をあつめました。
その背景には、題材となる歌舞伎の隆盛があったことはもちろん、同じころに流行した「生き人形」の存在が挙げられます。菊の細工の良し悪しだけでなく、人形の出来も評判に係わったらしく、生けるが如く写実的に作られる等身大の生き人形の技術は、菊人形にぴったりであったといえましょう。
当時、生き人形師として人気を博していた安本亀八や山本福松は、菊人形用の人形も数多く手掛けましたが、興行ごとの消耗品である性格から、当時の実物はほとんど遺されていません。
本品(左・看護婦、右・五代目 尾上 菊五郎)は、ともに明治時代に団子坂の植梅で使用された頭で、損傷はあるものの迫真の表情に、かつての精彩が偲ばれます。