吉徳これくしょん vol.29

 
木目込稚児雛

 現在、人形店の店先を彩る雛人形は、その製法からおよそふたつに大別されます。ひとつは、「衣裳着」(いしょうぎ)と呼ばれるもので、木または藁製の胴体に織物の衣裳を着せた、最も一般的なタイプです。もうひとつは、木または桐塑(桐のオガクズの練物)製の胴体に溝を彫り、裂を貼り込んだ「木目込」(きめこみ)と呼ばれるものです。

  ともに異なる素材や技法を活かした味わいを特長としますが、このうち木目込人形は、江戸時代後期に京都の賀茂神社の雑掌が神具の柳筥(やないばこ)の残材で作ったという木目込式の人形・「賀茂人形」がルーツであるといわれます。

  ただし、実際は賀茂人形と今日の木目込人形とが直接連なっているわけではなく、賀茂人形も含めた木目込式の人形の古品を参考に、明治以降に東京の人形師の間で頭や胴体を桐塑で作り、これを量産するようになったのが現在の木目込人形であるといえましょう。

  本品は、伝統的な御所人形に近代的な感覚を盛り込んで、独自の芸術作品を創り上げた人形作家・野口 光彦(1896~1977)の少壮の頃の作です。無駄を省いたくっきりとしたフォルムと気品あふれる御所人形風の表情との融合が、他の追随を許さぬ木目込雛人形の傑作を生み出しました。

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