吉徳これくしょん vol.31
現在では、「五月飾り」といえばただちに鎧や兜が想像されるほど、飾甲冑(かざりかっちゅう)はその代表的存在となっています。端午の節句の飾甲冑は鎌倉時代にその発祥をみることができますが、当初は兜のみを飾ったものらしく、このことは江戸時代中期頃までの絵画・文献資料からもうかがえます。
初期の飾甲冑(兜)は、おおむね檜兜のようなものだったと思われ、おそらくは神事に用いる幣帛に似たその形態に重要な意味があったものと考えられます。すなわち「節句」の本義から、災厄を祓い、神の依代(よりしろ)とするため、兜にもこうした造形がなされたのでしょう。
しかしながら、長く続いた武家社会のなかで、端午の節句における尚武的意味合いが次第に強くなってきた結果でしょうか、江戸時代後期には、兜だけでなく鎧も多く飾られるようになります。庶民が飾るその大半は張子製の簡素なものでしたが、なかには本物さながらの立派な細工のものもあり、これらについては雛人形同様に奢侈を戒める禁令も度々出されました。
本品は昭和初期の東京製品ですが、実際の甲冑をモデルとしながらも単にミニチュア化させたのではなく、節句飾りとしての工芸的な美しさを十分考慮した独特の作風に、今日の飾甲冑の源流をみることができます。