吉徳これくしょん vol.35
江戸時代後期から明治時代にかけて、上方で独特の様式を持つ衣裳人形の一群が作られました。見得を切ったような誇張されたポーズと表情、格狭間(こうざま=刳り抜き)のある黒塗台が特徴のこの人形は「竹田人形」と呼ばれています。
その呼称は、大坂道頓堀で江戸時代前期から後期にかけて人気を博し、「東西辺鄙の旅人も竹田からくりを見ざれば大坂へ来たりし験(しるし)なし」といわれたほどのからくり人形芝居「竹田近江一座」にちなんだものです。ただし、「竹田人形」とは明治以降の人形愛好家たちが分類の便宜上、名付けたものなので、これらの人形の生い立ちと竹田からくりが実際に関係あるかどうかは分かっていません。
人形としては特に上等な出来のものではありませんが、芝居の登場人物を題材としたらしく、いかにも大げさな格好と作り物的な小道具には、庶民的な味わいがあり、また静的な表現が多い日本の人形のなかではこうした動きのある、力強いものは比較的珍しいといえましょう。
大坂で製作され、竹田からくりの見物みやげのような性格であったともいわれますが、台の裏に京都の人形店の商標が貼られた遺品も確認されていることから、全てが大坂産であったわけではないようです。いずれにしても、頭(かしら)の表現や遺品の残存地などから、関西で作られたものであることは疑いありません。